第1章

1. コンセプト

  • 水道事業体などの小規模な組織でも気軽に所有するGISデータを共有・活用できるようにする
  • 可能な限り低コストでベクトルタイルを運用できるようにする

2. ツールを開発した理由

アフリカの水道事業体では水道管のGISデータを収集した後、データの共有・活用をする際に、予算やノウハウがなく、うまく活用できず、そのまま使われなくなってしまうケースが多い。その結果、継続的にデータ更新がなされずに、数年後にデータが改めて必要になった時に、また同じデータ収集から着手しなければならず、非効率である。

WebGISを通して水道GISデータを広く活用してもらうことで、継続的にデータをメンテナンスしていくモチベーションを保てるのではないかと、その方法をずっと模索してきた。最近、ベクトルタイルという技術に関わることになり、その技術を活用できるのではないかと思い開発した。

3. ツールの目的

  • データ収集後に水道事業体のスタッフ全員とGISデータを共有できる
  • GISデータを活用し、水道事業体の業務を効率的に運用できる
  • いわゆる無収水(Non-Revenue Water)などの水道管網以外にもありとあらゆる水道事業体の業務で活用できる

4. 水道事業体を取り巻く現状

GISデータの必要性は世界中の水道事業体で認識されつつあり、多くの事業体ではデータ収集に既に着手している。

しかしながら、多くの水道事業体では収集したデータの活用をする際に次のような課題を抱える

  • GISデータへのアクセスが限定されている
  • GISの利用には比較的高度なスキルが必要であり、活用が難しい
  • プロプライエタリ製品の場合、ソフトウェアやトレーニングのコストが高く、事業体内での普及が難しい。
  • 脆弱なインターネット環境の場合、インターネットを介した共有が困難

こういった状況を解決するために、より持続可能で低コストでGISデータを運用できるベクトルタイルをオープンソース・オープンデータとして導入することをオススメしたい。

5. オープンソース・オープンデータの活用

オープンソースやオープンデータとして、運用をすることを前提とした場合に、無償である一定範囲まで使用可能になる場合がある。それにより、低コスト(多くの場合無料)で運用できるため、小規模な組織にとっては良い選択肢となる。

  • FOSS4G (Free & Open Source Software for Geospatial)と呼ばれるオープンソースGIS(QGIS, PostGISなど)を活用する
    • ArcGISなどのプロプライエタリ製品と比べて圧倒的に低コスト
  • Gihub Pagesを活用し、サーバーレスで実装する
    • GISサーバーが不要になるため手軽に導入できる
  • GoogleMapライクなインターフェースのWebGISを使用する
    • WebGISならArcGISやQGISに求められる高度なスキルが不要
    • WebGISにすることでトレーニングのコストを最小限に抑える
  • データ配信には軽量なベクトルタイルを活用する。
    • WMSやTMSなどのラスタタイルと比較して圧倒的に軽量でタイル生成コストも安い
    • WFSなどの動的なベクターデータ配信よりも安定的で高速

6. 水道事業体でのベクトルタイル活用の可能性

例えば以下のような活用の可能性がある。

  • 無収水(NRW)対策に有効活用できる。
  • 配管工が水道工事をする前に水道データに簡単にアクセスし、現場の状況をより効率的に把握できる
  • 検針員が現場で水道データを使うことでより効率的に検針していくことができる
  • 顧客対応時に、ベクトルタイル地図を用いることでより適切に対応でき顧客満足度につながる
  • 事業体のマネージャーなどの場合、水道施設の将来計画に有効に活用できるほか、政府機関や金融機関へのステークフォルダーへの説明・共有にも活用できる
  • オープンデータにすることで、水道セクター以外ともデータの共有が図れる。民間企業とのコラボレーションなど、将来的にさまざまな可能性・相乗効果がある。

しかしながら、現時点で水道データをオープンデータとして活用している事例はほとんどないと思われる。そのため、水道ベクトルタイルをどのように活用していくかは、今後試行錯誤していく必要がある。

どう活用していくかは完全にその組織次第!